心に「穴」を抱えて生きる-書・刻・雑言<16>

2015年2月27日

16_sankei_20080318

梅を見にゆく。一本の老木に会いにゆくのた。小柄なその木は今年も白い花を付けていた。その姿が凄まじい。枝は幾重にも屈曲してうねり、樹幹は捻れ傾き、半身が砕けている。大枝の断裂の痕、瘤の数々。其幹部は抉り取られて虚となり、ポッカリと大穴が開き、暗く深く樹身を穿っている。

何かを吸収し、獲得してきた、いや違う。何かを殺ぎ落とし、挫折し、諦めて今ここに生きている。その姿は凄まじくも美しく、誇りに満ちて神々しい。誰もが心に「穴(穿)」を抱え、内蔵している。離別、病、過去…。けれど、生きてゆく。小さくと香り高い花を咲かせてゆく。来年も、また次の年も。

「老梅や 蔵せる白を 尽くしけり」  北澤瑞史先生句

◇抱穴=北周・庾信「枯樹賦」より
◇書=「抱穴」初唐・褚遂良の書を臨模。黒紙に白墨にて
◇印=藏穿 穿を蔵す。「枯樹賦」より

フジサンケイビジネスアイ2008年03月18日