日ごろの憂さを飲み干す-書・刻・雑言<7>

2015年2月9日

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師走半ばを過ぎてのんきなことも言ってられないけれど、落語を聴くにはいい時節。寒風に雪、年の瀬を背景にした”季節限定”の噺が多い。「鰍沢」「鼠穴」「富久」…。「時そば」も冬が似合う。

「芝浜」が傑出している。酒と拾い物の銭で人生を棒に振りかけた魚屋。大晦日の夜に、女房から「3年前の50両」を打ち明けられる。頭を下げる女房に「まあ、お手をお上げなすってくださいやし」(ここでなきそうになる)。

断っていた酒を鼻先へ。と、酒の器を置いてしまう。スカッとした下げ。古今亭志ん朝の秀麗な高座を思いだす。

落ちの後で、この主人公、やはり酒を口にしたと思う。しみじみとした、さわやかな酒だ。

◇忘憂=憂いを忘れること。転じて、酒の異称。
◇書と印=陶淵明『飲酒』其の七に「忘憂の物」から。行書で柔らかく、淡墨を混ぜて楽しく書いた。印は『飲酒』其の九から。「共に此の飲を歓ばん」。朱文陽刻(凸)で、ややユーモラスに。

フジサンケイビジネスアイ2007年12月18日